【SMバー ㊙エピソード後編】ARCADIA TOKYO 堂山鉄心


SMバー初心者の「SMfan」編集部スタッフと、「SMバー」オーナー堂山鉄心氏による対談企画。今回は後編をお届け致します!
まだ前編をご覧になっていない方は、先にこちらをお楽しみください。
【SMバー ㊙エピソード前編】ARCADIA TOKYO 堂山鉄心

初心者でも安心! SMバーでの『緊縛の楽しみ方』

編集部スタッフ(以下、編集):緊縛プレイを楽しみに来られた方たちには、「じゃあちょっと縛られてみる?」みたいな感じの誘導をするんですか?

堂山鉄心(以下、鉄心):いえ。僕からは絶対に声をかけないので、縛って欲しい人は言ってくれとお願いしています。

編集:お客さんは、『縛りたい』人よりも『縛られたい』人の方が多いですか?

鉄心:『縛られたい』人の方が多いですけど、『縛りたい』という人もいっぱいいますよ。縛りたい方がいると、僕の仕事がちょっと減るので助かります(笑)

編集:そんな方々の中だとキャリアというか、初めての方もいれば何年間もいろいろなお店でやっている方もいて、やっぱり差が出ちゃうじゃないですか。その辺のケアは結構苦労されているんじゃないですか?

鉄心:差が出るのは当然ですし、誰でも最初は初心者ですからそれはしょうがないですよね。経験積んでいってもらうしかないです。たとえば僕は必ず最初はどこかの講習会(編集追記:縄師らが主導となって行う緊縛の勉強会やセミナー)に行った方が良いよとアドバイスします。そうやって技術プラス、コミュニケーションの取り方を磨いていってもらえたら良いですね。

編集:鉄心さんもお店で講習会をされていますよね。今はどれぐらいの頻度ですか?

鉄心:今は月3回です。大体週に1回やるかやらないかぐらい。

編集:講習会に行けば、もっとSMバーを楽しめるようになりますか?

鉄心:なにより講習会を通じて知り合いを増やせるのが一番良いんですよ。そうすれば普段お店に遊びに来ても、知らない人ばっかりっていう状況になりづらいじゃないですか。

編集:確かに、1人より2人の方が一緒にお店にも入りやすいですもんね。

鉄心:そういうことです。

編集:いきなりお店に突撃するよりも、まずはそういう講習会から入るというのもひとつパターンとしてあると。

鉄心:あくまでパターンの一つですけどね。

編集:鉄心さんぐらいになると、緊縛に慣れている人は一瞬で見抜けるものなんですか?

鉄心:一瞬かどうかはさておき、見れば分かりますよ。

編集:たとえば僕がSMバーに行くとなったら、ちょっと初心者だと言うのが恥ずかしいというか……。格好つけたいじゃないですけど、なんか背伸びしてしまうと思うんですよね。

鉄心:(笑)男性の初心者に近い方で、背伸びしない方を見たことがないです僕は。

編集:やっぱりみんなそうですか(苦笑)

鉄心:もちろん自分を含めてです。

編集:鉄心さんもかつてそうでしたか?

鉄心:やっぱり身構えてしまいますよね。だいたいのお客さんは、背伸びをしているか、頑張って謙虚にしようとしているかのどちらかです。自然体ではなかなかいられない。

編集:それをほぐす方法はあるんですか?

鉄心:なるべく和気あいあいとお話をするしかないでしょうね。

編集:そこでコミュニケーションが大事になってくるんですね。

鉄心:少し言い方が悪いですけど、「怖くないよ。誰もマウントなんか取ってこないよ」と認識してもらうしかないんです。

編集:なるほど、はじめは警戒もしますしね。「バカにされるんじゃないか」とか。

鉄心:男性は特に多いです。こればっかりは何回も何回も、そんなことないよって言い続けるしかない。

編集:では鉄心さんのスタンスとしては、「背伸びするのは仕方ないから、いずれ背伸びをやめような」って感じなんですかね?

鉄心:そうです。というか別にみんな最初はそこを通るので。で、背伸びがバレたら今度は恥ずかしくなって、のちのち「あの時は俺も頑張ってたなぁ」みたいに振り返る(笑)

編集:うんうん(笑)

鉄心:それも含めてじゃないですかね。みんな一緒ですよ。

編集:この言葉が初心者にとって一番励みになる気がします。

身近なものでもSMを! ただし、知っておかなければならないのは「事故のリスク」

編集:先ほど講習会の話がありましたが、たとえばちょっとでもSMに興味があったら、初心者のうちにというか、変な癖が付かないうちに講習会には行っておいた方が良いですか?

鉄心:僕はそれをオススメします。もちろん、どうしても合わない人もいると思うんですよ、そういう団体みたいなものとか、コミュニケーションとかがどうしても合わない人。だからこれだけが正しいとは言いませんけども、多分その方が楽だと思います。パートナーを見つけるにしても、純粋にプレイをしたいって考えても、それが近道のような気がしますけどね。

編集:『講習会』って形だけ聞くと、専門家というかプロフェッショナルを目指す人が集まるような場所って印象をどうしても受けちゃうんですよね。

鉄心:そんな人は、ほぼいません。

編集:そうなんですか!? みんなどういう志なんですか?

鉄心:多くの人はやっぱり友達やパートナーを作りたいと思っている人でしょうね。そっちの話のできる人・話し相手が欲しい、と。

編集:意外です。みんな師匠と弟子みたいな関係を求めてきているような印象でした。

鉄心:いやいやいやいや、全然全然(笑)

編集:たとえば、日頃のセックスの中に「今日はSMを入れてみたいな」という人も、一回講習会なりSMバーなりに行って勉強しておいた方がいいんですかね?

鉄心:いや、そこはどっちでも。学びたいと思うんだったら来られた方が絶対いいですけど。でも別にちょっとSMごっこをするぐらいでは、いちいち必要ないんじゃないですかね。

編集:こういう聞き方が合っているか分からないんですけれども、絶対に安全なSMってないんですか?

鉄心:ありません。

編集:やっぱりそうなんですね。

鉄心:もちろん内容によりますよ。でも絶対安全なんていうものは世の中に僕はないと思ってます、SMに限らず。

編集:ああ、なるほど。

鉄心:その質問は、「絶対事故をしない運転の仕方はありますか?」って聞いてるのと同じです。

編集:確かにそうですね。でもとはいえ、ちょっと身近でも出来る何かがあれば良いなぁ、とかやっぱり思っちゃうんですよね。それこそ縄が危なければ別のものとか。

鉄心:別のものでも事故の可能性は絶対あります。手枷であっても、タオルであっても、何であっても一緒です。

編集:どんなことでもある程度はリスクがあるから細心の注意を払わないと、ってことですね。そんな中でもはじめの一歩として、強いて言えば最初はこの辺から始めた方が良いんじゃないかな、みたいなオススメはありますか?

鉄心:手ぬぐいで手首を縛ったら良いんじゃないですか?

編集:縄や手錠とは何が違うんですか?

鉄心:縄のように細いものだと、それだけ面ではなく、線で身体を押さえることになります。そうすると1点に対する圧迫がどうしても強くなるんですよ。

編集:手ぬぐいみたいに面が広いと、それだけ圧迫の負担が少なくなって事故も減ると。

鉄心:でも、たとえば手ぬぐいで手首や足首を縛ったとして、その状態で目隠しをしてちょっと目を離したすきにベッドから落ちたら事故りますからね。

編集:確かに……そうですね。

鉄心:他にも手拭いで手を縛って拘束したまま正常位でセックスしていて、肘や肩の関節が外れることもありますから。

編集:リスクはどこにでもあるんですね。そう考えるとAVで見るような縛り方とか、天井から吊るすとか、ああいうのをいきなりやるのはかなり危険ですね。

鉄心:本当にやめられた方がいいと思います。結局初心者さんほど、安全よりも簡単に自分が真似できるものを選ばれるんですね。安全に関する知識を得ようとする努力を惜しんで、なるべく簡単に再現できそうなものを探す。だからそこに当然危険は出てきます。

編集:見よう見まねってやつですね。

鉄心:おっしゃる通りです。

編集:こういう危険度や安全に楽しむ為の情報を交換する場として、SMバーを利用するのもアリなんですか?

鉄心:もちろんです。カップルでウチに遊びに来られて、「こういうプレイを考えてるんですけど、何が危ないですか?」っていうのを話しに来てくれた人もいます。安全への相談は全然ウェルカムですね、ありがたいです。

編集:鉄心さんにお伺いしたら、「これはこうしたら良いよ」みたいなことも教えてもらえますか?

鉄心:僕がお話しできることもあるし、スタッフが答える方が向いている内容もありますし。たとえば男性に対するフィストファックなんて、僕よりも女の子たちの方が絶対知識や経験を持ってますから。普通の飲み屋では「アナルセックスしたいんだけど、どうやったらいいかな?」なんて相談しても答えは出ないですよね。

編集:まずそもそも、普通の飲み屋でアナルセックスについて聞けないです(笑)

鉄心:仮に答えが出たとしても、そこで得た答えを鵜呑みにしていいのかどうかというのが非常に怖い。その点SMバーには知識や経験が豊富な人が多いですから。

編集:勉強の場でもあるんですね。

鉄心:勉強と言ってしまうと、ちょっと偉そうになるんで嫌なんですけどね。

SMバーオーナーも試行錯誤の日々……。お客さんとのコミュニケーション

編集:ちなみに鉄心さんには、こういうお客さんに来てほしい、という希望はありますか?

鉄心:いえ全然。SM好きな方が来てくだされば嬉しいです。そこは経験者であろうが、まったくの初心者であろうが、その辺は全く問題ないです。

編集:はじめてのお客さんはみんな、すっとお店に入ってこられるものですか? もじもじしながらとかになりません?

鉄心:そういう方もいらっしゃいますし、もちろん最初から元気に入ってくる方もいらっしゃるし、それはもう人それぞれですね。中には、「話しかけてくれるな」って空気の人もいらっしゃいます。

編集:それはかつての鉄心さんじゃないですか(笑)

鉄心:本当はそこからうまくコミュニケーションを取れたら良いんでしょうけど、まだ僕にそこまでの技術が無いんだと思います。「喋りかけなくて大丈夫ですから」って言われたことも実際ありますしね。

編集:デリケートなところだから、難しいですね。

鉄心:申し訳ないですけど僕自身、「あまり話しかけない方が良いのかな」って判断する時もあります。見ているのが好き、ただ見ているだけで十分、って方もたくさんいらっしゃるので。

編集:そうか、そのパターンもあるんですね。

鉄心:でもそれは僕の間違いかもしれない。「ずっと話しかけてくれるのを待ってたのに」って思うかもしれない。本当に僕もまだ、見極めが完璧に出来ている自信がないんです。

編集:これもイメージなんですけど、SMバーの店長さんって常にオラついているというか、「俺のスタンスは絶対正しいから」みたいなイメージでした。やっぱり常に試行錯誤というかあれこれ考えているんですね。

鉄心:そりゃそうですよ。僕はただの飲み屋のおっさんですから(笑)

編集:確かにそうでした(笑)時々忘れかけてますけど、SMバーも普通の飲み屋ですもんね。

鉄心:あと、これは僕が言ったらダメかもしれないけど、何を話しかけても「はい」と「いいえ」でしか答えてもらえないと悩みますね。「話しかけたらダメなのかな」っていう風に判断してしまう時もしばしば。

編集:その方は緊張してるんですかね。

鉄心:そうだと思うんですよ。うまく緊張をほぐせる技術が僕にあればひょっとしたら違うのかもしれないんですけど、難しいです。

編集:もちろんお客さんありきですけど、願わくばもうひと声が欲しいところですね。

鉄心:僕らも頑張るのでお客さんも、もうひと頑張りだけしてもらえたら嬉しいなと。でもそれすら実は僕の勘違いで、本当は話しかけて欲しくないだけかもしれない。

編集:正解が出ないからずっと苦しいですね。

今のSMバーは右肩上がり! フェチがある方はまず来店を!

編集:コロナの自粛期間も明けて久しいですが、お客さんの戻りはいかがですか?

鉄心:9割くらい戻ってきてますよ。9割以上かな。

編集:では、一応は峠は越えた感じですかね?

鉄心:もう……しんどかった(苦笑)

編集:最近は新規さんも結構いらっしゃっていますか?

鉄心:今はやっぱり新規の方がものすごく多いですね。3年間みんな我慢してたんでしょうね。

編集:ではある意味、今がそのビッグウェーブに乗るチャンスかもしれないですね(笑)今なら、周りはみんな同じ初心者だぞ、みたいな(笑)

鉄心:間違いない(笑)

編集:業界的にはどうなんですか? ここ数年のSMバーというのは。

鉄心:盛り上がってるんじゃないですかね。というかコロナが本当にきつかったので、今はみんな右肩上がりだと思います。ただこの先、またちょっと横ばいになるのは間違いない。だからその横ばい状態が、いい感じで横ばいなのかよくない感じで横ばいになるのか。そこはちょっと分からないですけどね。それぞれのお店の努力もあると思いますし。

編集:最後に鉄心さんからご新規さんへ向けてメッセージをいただければと思うのですが。何かちょっと呼びかけてもらっても良いですか?

鉄心:気負って来られてもキョドって来られても構わないので、本当にただの飲み屋ですから気軽に来ていただいたら良いんじゃないですかね。自分の思いみたいなものを話すだけで、すごく楽になれることもあるのではないかなとは思うんです。僕はそうだったので。

編集:たとえば人に言いづらい性癖があるとするじゃないですか。それをSMバーで言っても引かれるんじゃないかな……みたいな不安がある人もいると思うんです。

鉄心:もちろんいらっしゃるでしょうね。でも引きませんよ。よっぽど犯罪に絡んだり、著しく法に触れない限りは引かないです。

編集:ある意味、一番安心出来るコメントじゃないかと思います(苦笑)

鉄心:「SMじゃないから、こういう話とかしたらダメですよね?」みたいな人もいるんですけど、SMに境界なんてないので。それがSMかどうか考える必要はないです。「僕はこんな変わった性癖を持ってます」だけで十分です。乳首だけ2時間舐めたいんですって言われてもOKです(笑)

編集:それは懐が広いですね(笑)

鉄心:僕はそういう部位のフェティシズムを持っていないので逆に羨ましいですし、そういう話を聞きたいです。

編集:いいですね。是非何かちょっとでも心に持っているものがある人は鉄心さんに聞かせてください、みたいなことですね。

鉄心:髪の毛をひたすら食べたいでも構わないんで。

編集:多分いらっしゃるでしょうね、日頃言えないだけで。

鉄心:きっと絶対どこかにいると思う。

編集:それらをすべて受け入れるSMバーというものに今回改めて感服しました。鉄心さんありがとうございました。

鉄心:とんでもないです、こちらこそありがとうございました。

<ARCADIA TOKYO>
■所在地
東京都新宿区歌舞伎町2-10-6ピア新宿3階
■営業時間
平日 19:00〜23:30/土 15:00〜23:30/日祝 15:00~22:00
※毎週火曜・水曜は堂山鉄心はお休みです。
■料金
男性 90 minute ¥7,000/Free time ¥9,000
女性 Free time ¥3,000
※18歳未満、高校生は入店をお断りしております。
■公式ホームページ
http://www.arcadiatokyo.com/

堂山鉄心

堂山鉄心

1966年4月6日、大阪生まれ。歌舞伎町のSMbar『ARCADIA TOKYO』のオーナー。緊縛師として舞台や映像作品でSMパフォーマンスを行っているほか、縄講習会『縛心会』も主催している。

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