日頃の生活で気にしなければならない肩書きや世間体を忘れ、誰しもが自らのフェチや性癖を開放できる場所、それが「SMバー(フェティッシュバー)」
非日常的なエロス空間を楽しみたい人にとって、そこはまさに安心できるくつろぎの場、夢広がる出会いの場かもしれないが、一方で完全な初心者にとっては未知ゆえに少し怖さを感じる場所かもしれない。
そこで今回は、SMバー初心者の「SMfan」編集部スタッフと、「SMバー」のオーナーによる対談を開催!
取材に応じてくれたのは、新宿・歌舞伎町にてSMバー「ARCADIA TOKYO」を経営しながら、現役の緊縛師としても活動をしている堂山鉄心氏。バーの店長・オーナーを務める中で、これまで数千〜数万人ものお客様を見てきたからこそわかった、SMバーに来られるお客さんが求めること、お客さんに対して出来ることとは?
SMバーをはじめて13年。お客様との『一期一会』を大切に。
編集部スタッフ(以下、編集):まずはそもそも、鉄心さんはこの業界に入って何年目ですか?
堂山鉄心(以下、鉄心):ちゃんと入ったのは13年前です。緊縛師として舞台に立ったのはもっと前ですけど、東京でSMバーをやらせていただいたのはそこからですね。それまでもお手伝いはしていたんですけど、自分の中ではあくまでお手伝いであって、業界人という感覚はなかったです。
編集:お手伝いとは、『大阪ARCADIA』(編集追記:大阪梅田にあるSMバー。『ARCADIA TOKYO』の系列店)で?
鉄心:そうですね、お手伝いしながら時々ショーをやらせてもらったりとかして。でも自分の中でかっちり仕事っていう意識を持ってやっていたわけではなかったですね。
編集:SMに興味を持ったというか、この業界に進んだ、そもそものきっかけみたいなのって何だったんですか?
鉄心:うーん……会社を潰したからですかね(苦笑)
編集:鉄心さんって経営者だったんですか!? 差し支えなければ当時の業種を聞いても大丈夫ですか?
鉄心:電気工事屋です。会社員をしたあとで自分でも会社を作って。
編集:じゃあその会社が潰れたから、「よし、次はSMか」って考えたんですね。
鉄心:電気工事の会社をもう辞めるってなったときに、蒼月さん(編集追記:蒼月流(あおつきながれ)、『大阪ARCADIA』のオーナー。)が「今度東京に店出そうと思ってるんやけど鉄ちゃん行けへん?」みたいに声掛けてもらって。
編集:ああ、なるほど。
鉄心:「ほな行こうかな」みたいな(笑)
編集:(笑)じゃあ言い方はあまり良くないかもしれないですけれども、タイミング的にはわりとバッチリというか。
鉄心:いやぁ、本当にね。ちょっとご迷惑をかけた方もいるので、あんまりそういう表現も良くないんですが。
編集:その時はもう2つ返事というか、その場で「行きます!」って決めましたか?
鉄心:いやいやいや、いざとなったら悩みますって。
編集:悩みというのは、具体的にどういう部分で?
鉄心:家族を置いて、東京に一人で行くということですね。自分の中で結構考えて、そこから報告って形で「東京でお店を出そうと思う」と伝えました。
編集:当時、奥様はどういうリアクションでした?
鉄心:うーん……うん、うん、うん……。
編集:……なるほど、お察しします(苦笑)
鉄心:でもその時にはすでに、僕は「あんたは好きに生きなさい」って言ってもらってたんで。
編集:強いて反対はされなかったけれども、行くからには頑張らなきゃ、みたいな。
鉄心:もちろんです。家族を守るために、俺はこういう決断をするっていう話をしたんですよ。
編集:で、単身東京に行かれてお店を開く、と。東京でSMバーを開かれるってなった時、「こういうお店にしたいな」みたいなイメージって結構明確にありましたか?
鉄心:いやぁ、最初の5年間は完全に蒼月さんのお店で、経営者も蒼月さんだったので。僕はあくまで店長ですから、自分の理想みたいなものはそこまで強く持っていなかったですね。
編集:まずは置かれた場所で、ということですね。でもそこからたった5年で独立というか、鉄心さんが経営者になったんですね。
鉄心:きっかけはいろいろとあったんですけど、最終的にはこのお店を買い取らせてもらえないかという話をして、蒼月さんにOKをもらって。そこはきっちり商売でした。
編集:それまでの5年間というのは、ぶっちゃけ黒字だったんですか?
鉄心:はい。もちろんです。
編集:すごい! 以前にYouTube(編集追記:堂山鉄心のYouTubeチャンネル『鉄学のススメ』のこと)でもお話されていましたが、お店を出された当時、SMの聖地と言えば六本木だったじゃないですか。
鉄心:そうですね、新宿に店を出すなんてありえない、みたいな時代でした。
編集:その時代の新宿ならではの苦労もあったんじゃないかなと思うんですけれども。
鉄心:たとえば金額設定が本当にわからなかったですね。今から考えたらやっぱりちょっと高かったのかな、と思います。
編集:当時お店を出された時で料金はおいくらだったんですか?
鉄心:男性フリータイム1 1,000円、女性2,000円、しか無かったんですよ。今みたいに90分で帰るならもう少し安く、みたいなお試し時間みたいなものが無くて。だからどんなものともわからずに1 1,000円が確定する状況でお客さんは来なきゃいけなかった。
編集:そうなるとお客さんもある程度ベテランさんが中心というか。初心者さんには結構敷居が高かったかもしれないですね。
鉄心:若手さんにとってはだいぶ高いですよね。もちろん時代的にそうだったというのも当然ありますけど。
編集:そんな中でもお客さんが来るって、すごいことですよね。
鉄心:ありがたいことですね。それはやっぱり蒼月とARCADIAのネーミングですよ。
編集:東京でお店を出されるとき、業界内で話題になったんですか?
鉄心:めちゃくちゃ話題にしていただきました。オープン初日はお客さんが店の前に並びましたから。
編集:それはすごい!
鉄心:最初3日間のお客さんの数はえげつなかったですよ、3日間はね。でも4日目からはガラッガラ(笑)さぁここからどうしよう、と。
編集:先ほどの料金設定もそうですけど、他にもここをこうしていかないとダメかもな、みたいに変えてきた部分はありますか?
鉄心:店の間取りや内装は創設当時からほぼ変えていません。だから、お客様が飽きないように僕らがどう対応していくかですよね。やっぱり常に一期一会ということを忘れないでやっていかないとダメだと思います。
編集:お店の方もお客さんも、だんだん慣れてきますもんね。
鉄心:そこで毎回毎回気持ちを新たにして、今日初めて会う人たちをちゃんと大切にもてなそうね、っていう気持ちを大事にしていますね。
編集:鉄心さんはもともと『大阪ARCADIA』ではお客さんだったと伺っています。ご自身がお客さんだったからこそ、「経営者として自分はこうしよう」みたいなことも考えられるんですか?
鉄心:うーん、これは本当に素人考えで、もう何回もそれで失敗してますよ……。
編集:失敗もされてきたんですね(笑)
鉄心:やっぱり「こうしたら良いんじゃないか」というのはあくまで個人の考えであって、どうしても全体の考えではないんです。全体のニーズというのはなかなか見えなくて、自分の頭の中で「もっとこうやったらお客さんは喜ぶんじゃないかな」って思ったことがそうでもなかったり、みたいなこともたくさんあって。こういうトライアンドエラーの繰り返しだと思います。
編集:ちなみに鉄心さんはSMバーではどういうお客さんでしたか?
鉄心:僕はとにかく、スタッフさんとも話さずずっと店内で縄を鞣していましたね。
編集:そんなお客さんはちょっと怖い(苦笑)
鉄心:でもお店に新しいお客さんが来たときは、その人とコミュニケーションを取るのが僕の仕事だって勝手に思ってました。お店の人間から喋ると白々しいけど、お客さんの立場から喋るとちょっと近しく感じてもらえるかな、っていうのがあったので。
編集:お客さんの立場から新人さんに説明する役だったんですね。
鉄心:というのも結局、そのお店に新しい人が来てくれると僕が楽しいんですよ。もちろん女性であっても男性であっても、新しい血がどんどんどんどん入ってくるとお客さんである僕が楽しい。だからそういうことはわりと自分から積極的にやってたと思います。
編集:その心掛けというか気持ちが多分今でも表れているんだと思います。
SMバーも飲み屋も基本は同じ! 変態話は大歓迎、でも個人情報は絶対NG……
編集:はじめましての方とは具体的にどういう話をされるんですか?
鉄心:いつも「あなたはどんな変態ですか?」からですね。
編集:聞いたことあります。ある意味『SMバーあるある』ですよね(笑)
鉄心:もちろん、そこから話してくださる方もくださらない方もいます。でも別に変わらないですよ。
編集:変わらないというのは?
鉄心:たとえば普通の飲み屋に飲みに行って、「お仕事何されているのですか?」とか「どちらから来られたんですか?」とか、それでもやっぱり答えない人は答えないですよね?
編集:あぁ! 確かに一緒ですね。
鉄心:ただ、僕らはプライバシーに関する質問は出来ないので、やっぱりなるべく変態話から始めた方が良いと僕は思っています。で、お客さんが答えにくかったら、僕は自分の性癖を喋る。なるべく自分の中の性癖を出してもいいんだよっていう空気を出したいなと。
編集:まずは自分からさらけ出すことで、「さらけ出しても良いよ」っていうアピールになるわけですね。
鉄心:もちろんそれでも固い人は固いんですよ。でもそれがきっかけで「実は私は……」みたいな話をしてくれる人もいらっしゃいます。
編集:SMバーならではの工夫ですね。やっぱりプライバシーというのは聞かないというのが鉄則というかルールなんですか?
鉄心:これはもうスタッフだけじゃなくお客さん同士でも申し訳ないですが徹底してます。たとえばお名前、お仕事、お住まい、住んでいる地域や沿線だったりも全部ダメです。
編集:個人が特定される可能性があるから質問してはいけないと。
鉄心:特定されなかったとしても、「されるんじゃないか」という恐怖感を覚える人がいらっしゃるんです。そうなるとその方は不快に感じますからね。
編集:このあたりは普通の飲み屋さんよりデリケートかもしれないですね。
鉄心:お客さんのイメージで言うと、すごく非合法な場所で同じ質問をされたらどう思う?っていうぐらいの気分だと思うんですよ。根掘り葉掘り聞かれたら気持ち悪いし、「身分証を持って行きたくないな」みたいな感覚ってあるじゃないですか? 未経験者にとっての印象としては、それに近いような感覚をお持ちの人がいらっしゃるのかなと思いますね。
編集:なるほど。確かに、SMバーって最初は入る時にも勇気がいるみたいなことも聞きます。ドアの前で立って、最初の一歩が踏み出せなくて、みたいな。そういうちょっと敷居が高いみたいな印象も、非合法に近しい感覚なのかもしれないですね。
鉄心:そうですね。もちろんSMバーは非合法ではないんですけどね。
編集:店内での会話は性癖話がほとんどですか?
鉄心:いやいや、むしろ日常会話のほうが多いですよ。面白いと思った番組とか、あのとき好きだったアニメマンガの話とか。
編集:意外です。じゃあどちらかというと、SMプレイの相手よりも友達を見つける場所に近い気がしますね。
鉄心:そうなんですよ。ただSMバーの中では、自分の性癖をぶっ込んでいっても誰も引かないってだけです。たとえばアニメを見て、ここの部分がものすごく面白かったではなく、ここの部分で『めっちゃ燃えた』って言っても良い。
編集:フェチの話ですね。
鉄心:もしくは、ひどいことをしている、ひどいことをされている場面を見て、普通の人には「あそこでめっちゃムラムラきた」とかって言いづらいけど、ウチではそれを言っても良い。そういうことです。
編集:SMバーに来ている人もある意味『同士』ってことですもんね。絶対楽しいと思います。こういう話がしたくてほぼ毎日来てる人とかもいるんじゃないですか?
鉄心:もちろんいらっしゃいます。要はお客さんが何を望まれるかですよ。
編集:それで言うと逆に、「もうとにかく緊縛をしたい!」みたいなお客さんも中にはいらっしゃるんですか?
鉄心:そりゃもう。「あなた、コミュニケーションに興味ないでしょ」っていう方もいますよ中には(笑)でも、それはそれでアリです。
【後編ではSMバーでの『緊縛の楽しみ方』や、オーナーとしての試行錯誤などを語っていただきました!】
後編はこちらからお楽しみください。
【SMバー ㊙エピソード後編】ARCADIA TOKYO 堂山鉄心
<ARCADIA TOKYO>
■所在地
東京都新宿区歌舞伎町2-10-6ピア新宿3階
■営業時間
平日 19:00〜23:30/土 15:00〜23:30/日祝 15:00~22:00
※毎週火曜・水曜は堂山鉄心はお休みです。
■料金
男性 90 minute ¥7,000/Free time ¥9,000
女性 Free time ¥3,000
※18歳未満、高校生は入店をお断りしております。
■公式ホームページ
http://www.arcadiatokyo.com/